2024/05/23 - イェンユウ -
日本一暑い街、そして焼き物の街として知られる岐阜県多治見市にて台湾から移り住み作陶をされている陶芸家イェンユウさん。
彼女が生み出す器は幻想的で、層深く混ざり合う釉薬や淡く溶けるような輪郭は自然の情景を表現しています。
日本に来てより感じたという、生まれ育った台湾の刻一刻と変わる空模様、複雑な雲の動きの美しさに着想を得て現在のスタイルを見出しました。日本に来てからも、景勝地を訪れることが多かったようでそこで見た日本の風景も反映されているようです。
美しい自然の移ろい、その静と動を感じることができます。
今回新しくお店に迎えるにあたり、彼女の工房を訪ねてきました。ものづくりの現場、そして彼女から訊いたお話をご紹介いたします。
すっきりと晴れ渡った多治見の青空、訪れたのはイェンユウさんを始め若手の作家さんが活動するシェアアトリエ。
さっそく印象的なこの佇まい。
年季の入った建物、職人の息遣いを感じる作業スペースにワクワクしてしまいます。
工房内には各作家さんのスペースがあり、通路には中型の電気窯が並びます。焼成を終え、冷却中の窯の中には素焼き段階の器が入っておりました。
成形、乾燥、素焼き、施釉、そして本焼き、
時間を費やし土という素材が器へと仕上がってゆく。
普段見ることができない、ものが生み出される工程。
当たり前ですが簡単に出来上がるものではなく、それを認識することでより愛着を持って使うことが出来ます。
イェンユウさんの器といえば美しい釉薬の表情に特徴があります。その表現に使われる釉薬は8種類ほど。この釉薬の掛け合わせに加え、土の違いや還元焼成と酸化焼成の焼き方の違いによって発色が変わるため、いくつもの可能性の中から表現したい色を見つけ出します。それでも焼成を通して生まれる色の変化は、完全にコントロールできるものではなく、そこに難しさと面白さがあるといいます。
そもそも陶芸を始めたきっかけは、ワーキングホリデーで日本に来ていた時に体験した陶芸教室だったそう。自分の手で形を作っていくことに喜びを感じ、好奇心と探究心の赴くままに陶芸の世界に進むことを決めました。多治見市陶磁器意匠研究所で陶芸を学び、その後も多治見で作陶することを選んだ彼女。その決断に迷ったりはしなかったか訊いてみると、やりたいと思ったことはまずやってみる!と笑顔で答えてくれました。器作りに欠かせない上質な土があり、多くの作家さんに囲まれる良い環境。最後に多治見の街を案内してくれた彼女は充実した表情を浮かべていました。
お話を聞いているとどんなことも軽快に進んできたような印象ですが、大変なことはあったか訊いてみるとやはりコロナ禍は大変だったそう。異国の地で、新しい世界に入り込む。それだけでも想像以上の苦労がありそうですが、さらにコロナ禍の特殊な状況。台湾に帰ることが出来なかったことも辛い経験ですね。それでも、コロナがなかったら(希望者がもっと多くなって)意匠研究所に入れなかったかもしれないと明るく冗談を言う彼女。困難なことにも意味を見出し、自分の意志を原動力に動き続けるイェンユウさん。そんな彼女の素敵な姿を見ることが出来ました。
彼女が陶芸で表現する美しい景色。
柔らかな印象とその奥にある力強さに
脆くそして力強い自然の様を感じます。